フェアチャイルドのモノーラルピックアップ
ちょっとしたきっかけから,戦死した伯父の遺品「SPレコード」を聴いてみることになりました。
最近まで建っていた離れの2階に長らく置いてあったものですが,
子供心にも大切な品と思ったのかまたは単に興味を惹かれなかっただけなのか今日まで害を被ることなく,
無事に届けられたタイムカプセルみたいなものでもあります。
シュア V15III にSP専用針を差し込んで,
プレーヤの回転数を78rpmにし,
先ずは10インチ盤から針を落としてみました。
思っていたとおりの針音というかノイズの中から聞こえてきたのは懐かしい感じのする歌声でした。
出会うことのかなわなかった伯父達のことを一気に身近に感じた瞬間です。
調べてみると,12インチ盤フルトベングラー/BPOによる5番とかワインガルトナー/BPOの8番などもあり,
持ち帰った分だけでもと大切に保管してあったようです。
ならばこれらを再生して,若くして散っていった伯父達のことを偲んでみようという気になってきます。
そのためにはどんな装置が相応しいのだろうかと考えているうちに,
フェアチャイルド社モノーラルMCピックアップ・カートリッジ220Aを運良く入手することができました。
欲しかったのはカートリッジだけでしたが手元に届いた箱の中には,
ややこしい注文をやめて送料を奮発したお陰か,
木製の台にアルゴンヌ社製リムドライブ・ターンテーブルP38と一点支持オイルダンプ・アームGA3を取り付け,
台の底には双3極メタルGT管1本を使ったGE社のイコライザ・アンプを組み込んだ,
プレーヤシステム一式が収めてありました。
一緒に入っていた小さな包みから220A本体を取り出して見たところ,使われている材料が良かったのでしょう,
カンチレバーも滑らかに動きますし,指先にも作りの良さが伝わってくるようです。
丁寧に包んであったため針先も無事で,メータを繋いで軽く撫でてみると高レベルの出力が得られたことから,
早速,モノーラル専用イコライザの製作に取りかかることにします。
一方,
私的にはおまけで付いてきた,
アルゴンヌ社リムドライブ・ターンテーブルのアイドラや振動吸収用ゴム部品は全て,
材料がどうやら並程度だったらしく,
かちんこちんに硬くなっています。
これではどうしようもないので,
硬化したモータ支持部品の方は,
ソルボセーンを切り抜いて作ったリングと普通のゴムブッシングとを組み合わせたものに入れ替え,
モータからデッキへと伝わる振動が少なくなるよう調整しておいてから,
シリコンゴムで固定しておきます。
一方,アイドラは2個が同梱してありましたので,
そのうちのひとつからはゴムを全て削り落とし,
替わりに金属部品の外形に合わせた適度な径のオーリングを嵌めて調整し,
こちらもシリコンゴムを使って位置ずれを起こさないよう固定し,この状態で暫く使ってみることにします。
この程度の代用品でも,もうひとつのアイドラを作り直してもらうまでの繋ぎの役は充分に果たしてくれそうです。
そして,ターンテーブルシートも硬化と傷みが酷かったので,これはメッシュ状になった新しいものと交換しておきます。
インダクション・モータの回転軸には香箱と対応するかのようにニュートンガバナが組み込まれていて,
電源周波数とか電源電圧の変動による影響を遠心力と摩擦により吸収するだけでなく,
回転数の微調整ができるようになっており,
モータ本体が大きい事と相俟って力強くかつ静かに回転してくれるようです。
状態の良かったアームの汚れを落とし,台座の下から伸びている同軸ケーブルを新しいものに交換し,
簡単な整備と調整も終わっていたので,
出来上がったばかりの専用イコライザとGE社製イコライザとを取り替えておきます。
この電源内蔵型イコライザは,JFET入力オペアンプを使った単純な構成のアクティブフィルタを2段接続したもので,
RIAA特性とかNAB特性とかをスイッチの切り替えで選べるようにし,
利得や入力抵抗については基板に端子を立ててこれに部品を後付けすることで調整できるようにしてあります。
そして,フィルタ前段でイコライザの低域側の時定数 C2R5 と中域側の時定数 C2((R3+R4)//R5)=C2(R3+R4)R5/(R3+R4+R5) を設定し,
後段では高域側の時定数 C4R9 に加えて,
抵抗 R9 の値を抵抗 R7+R8 の11倍以上にして超高域側の時定数 C4((R7+R8)//R9) も決めています。
そのため2段目に関する超高域周波数における計算上の利得は (R7+R8)/R7 ということになりますが,
オペアンプの利得は比較的低い周波数から周波数に逆比例して減少することから,
実用上の問題を生じることは無さそうです。
またこの回路では,中域での前段の利得は (R3+R4)/R3 そして後段の利得は (R7+R8+R9)/R7 となることから,
負帰還量の周波数特性や過大入力に配慮して前段と後段への利得配分は1対1から1対3程度の比率にしておりますが,
この辺りのことは音の好みとかSN比などから決めております。
例えばRIAA特性にするのであれば,
低域/中域/高域の各時定数は3180μ秒/318μ秒/75μ秒となることから,
コンデンサ C2=22nFそして C4=1nFを使う場合には,
抵抗 R5=144.5kkΩ,R3+R4=R5/9=16.06kΩそして R9=75kΩ弱,R7+R8=8.3kΩ以下を選ぶことになります。
そしてこの場合,9R3=R4とすれば前段の利得は10倍に,2R7=R8とすれば後段の利得は30倍以上となり,
イコライザとして300倍(49.5dB)以上の利得が得られます。
抵抗 R2としては,
浮遊容量対策として数十Ωのものを選び,ジャンパ線も兼ねるようにしております。
一方,抵抗 R6については,オフセット調整をしない場合には百Ω以下のものを使っていますが,
オフセット調整する場合には1kΩ前後のものを使うようにしております。
そして抵抗R10については,ケーブルに起因した容量性負荷対策として,
50Ω程度のものを使っております。
ただし,直流遮断用コンデンサを用いていないことから,
平坦ではないレコードの再生時に発生する超低周波成分の出力レベルが大き過ぎるという事の無いよう,
前段および後段ともに周波数(時定数C1R3 および C3R7は 1/2πf)の目安を5〜10Hz程度にして,
低域遮断用コンデンサの容量を選んでおく必用があります。
レコード再生用イコライザの周波数特性は,
低域/中域/高域の各時定数により規定することになりますが,
規格に関する技術競争のあったことからも,
LP黎明期には何種類ものものが存在しているというややこしい状況になっております。
そこで,簡単のため時定数のみによる評価に限定し,
代表的なものとしてNAB(2242μ秒/318μ秒/100μ秒),
Columbia(1592μ秒/318μ秒/100μ秒),
デッカFFRR(1273μ秒/318μ秒/50μ秒),
AES(例えば5305μ秒/398μ秒/63.6μ秒),
OldRCA(例えば1592μ秒/265μ秒/63.6μ秒)を取り上げ,
RIAAイコライザカーブ(3180μ秒/318μ秒/75μ秒)に対しどの程度の差になるのかを調べてみることにします。
基準となる周波数を1kHzに揃え,
本来は規定されていない可聴帯域外の振る舞いも併せることでRIAAイコライザカーブとの差を読み取り易くするよう,
周波数帯域10Hzから50kHzにつき周波数特性を求めてみました。
その結果,低域(20Hz近辺)では一番偏差の大きいデッカFFRRは8dB弱低下しているなどかなりのばらつきが見られるのに対して,
高域(10kHz近辺)の方は一番大きく現れているFFRRでも1dB強の上昇で収まっていることが分かりました。
この程度なら,イコライザの後にトーンコントローラとかグラフィックイコライザを挟み,聴きながら調整することで何とかなりそうです。
また,この偏差の大きいFFRRに合わせて,例えばマッキントッシュC24だと,
低域では中庸ともいえるColumbia(多分)への切り替えスイッチを備えていたりしますが,
ここではNABイコライザーカーブをスイッチ切り替えにて選べるようにしてみました。
これにより,グラフィックイコライザ補正量はより少なくて済むことから,雰囲気を保ちつつ手っ取り早く調整できそうな気がします。
オペアンプに一般的なアナログICを,
コンデンサと抵抗は適当なものを選び,
同じ構成で何組かのイコライザを作ってみましたが,
ICによる消費電力の差が出る程度であって,性能面に大きな違いは出ませんでした
(写真にあるイコライザの全消費電力は約0.5VA,制作メモとのリンク有り)。
なお電源には,簡単のため,
三端子レギュレータを使った正電源を二つ積み重ねて構成した正負電源を用いております。
また,アルミ箔電解コンデンサは平滑回路にだけ用い,
高周波対策としてIC近くの給電部に数μFの積層セラミックコンデンサを配置しておきます。
イコライザは電源と一体化してプレーヤ本体内部のアームベース側に組み込み,
常用のカートリッジで出力レベルが1V前後になるように全体の利得を設定して,
他の機器と組み合わせた際の使い勝手に差が出ないようにしております。
音質に関しては,回路を個別部品構成にしてプリント基板を作成し,
電源平滑用にマロリー製高信頼タンタル金属箔コンデンサを用いた±35Vの定電圧電源を組み込み,
信号回路には双信SEコンデンサをと,
部品を選び手間暇かけて製作したSPU−A用FET入力差動増幅器によるNF型イコライザと比較しても大差なく,
中高域以上の周波数帯域における負帰還量が大きく変化しない所為か,
伸び伸びとしたとてもリアルな音のようです。
そこでこのイコライザの動作確認も兼ねて,
出力レベル対ひずみ率特性(ノイズ成分を含むRMS値,80kHz LPFのみ使用,良く見え過ぎることから聴感補正フィルタは未使用)を測定してみました。
電源電圧が±15Vだと出力電圧10V程度が精一杯となりますが,
所謂NF型とかCR−NF型などとは違って各周波数(100Hz, 1kHz および10kHz)での特性がほぼ揃っていること,
ひずみ成分(THD+N)の大部分が三端子レギュレータ由来とおぼしき耳に付き難い残留雑音(N)であったことからも,
実用上十分な特性を達成できているものと思います。
回路を2段に分けてイコライザを構成すると,
増幅回路1段で時定数を設定する廉価版NF型イコライザのような,
増幅率に応じて低域時定数を目標値よりも大きくするとか中域の時定数に関する余分な計算や調整の不要になることから,
時定数の設定はとても簡単になります。
それでも,音質や長期安定性の観点からカップリング・コンデンサや可変抵抗器を使わないようにした直結型でもあることから,
DCオフセット電圧を低く保つための工夫は必要かもしれません。
これに関しては,
低損失/大容量(60ppm程/10μF)のポリプロピレン・フィルムコンデンサを信号バイパス用(C1とC3)に使い,
オペアンプ(LF411とか356AまたはAD711など)のDCオフセット電圧を打ち消すよう組み合わせたのが効奏したのか,
これといった調整作業無しで数十マイクロボルトといった直流レベルにて安定させることができました。
このレベルになってきますと,
イコライザ出力の直流電圧を調べるだけでは故障と正常動作との区別が難しく,
交流での動作チェックも欠かせないため,
火入れ時の点検作業に少し余計な時間が掛かるようです。
しかしそうまでしなくとも無調整で,オペアンプは比較的単純な演算動作しかしていないこともあって,DCオフセット電圧は1ミリボルト以下に収まるもののようです。
ですので,
もしオフセット電圧が数十ミリボルトにもなるとか安定しないようであれば,
周波数帯域が数十MHz程度の高感度オシロスコープでオペアンプの出力を眺めながら,
何らかの高周波対策を行う必要が在るものと考えるべきでしょう。
また,高周波対策次第ですが,
抵抗R6を1kΩ前後の値にし2段目の正相入力に数MΩの高抵抗経由で数V程度の直流電圧を加えるとかしてオフセット調整することにより,
運が良ければマイクロボルト・レベルで安定させることも可能のようです。
ところでこのイコライザでは,周波数特性が時定数などにより明確には規定されていない可聴帯域外の周波数成分,
超低域および超高域成分を僅かではあるもののそのまま出力するようにしてあります。
これは,気象条件とか部屋の様子,特に,
その日の体調とか気分に応じた微妙な変化も再生音に反映することを求めるのであれば,
いわゆる可聴帯域外の成分(例えば20kHz以上の高周波成分が欠かせないと考えているからでもあります。
イコライザの入力抵抗(R1)を50キロオームと取り敢えず高目にしておいたこともあり,
アームのアースをしていなかったのとアーム内の配線がしっかりシールドされていないことも重なって,
デッキ本体へのアース線接続をしていないことに起因するのでしょうが,
カートリッジを外した状態だと微かにですがハム音が聞こえてきます。
が,プリアンプとの中継用グラフィックイコライザの準備も整え,
カーソルに取り付けたピックアップを一点支持オイルダンプ・アームに差し込んだ瞬間,
全ての灯りが突然消えたかのように静寂の世界がやって来ました。
アームとアームレストの高さも調整し,
件のSPレコードに針を落としてみます。
驚きました,以前はパチパチと五月蠅かった針音がフッフッといった殆ど気にならない感じの音色になり,
それをさらに抑えるような力強く魅惑的な歌声が乗って来るでは在りませんか。
針先はLP用の小さなものなので,
カンチレバーがパイプではなくビームになっていることと,
発電機構の構造が水平方向に刻まれた信号のみを取り出すようにしてあるためとしか考えられません。
確認のため,手持ちのモノーラルLPをかけて聴き比較した結果,演奏をしている舞台の拵えが良くなったかのように,
力強く響いてくれるようです。
さらには,
チャーリーパーカーの復刻版などではシュア V15III よりも力強い感じに聞こえてきますし,
モノラル版デッカ Mk.V とはまた別の雰囲気を醸し出し大いに楽しませてくれます。
それにしても,機械式プレーヤのリアルな音の体験から考えても,低域がよりしっかりとした感じに聞こえるしで,
電気式SP再生でここまでの音がするとは思っても見ませんでした。
とりあえず動作確認するところまでは持って行きましたが,
こうなってくると,細部をさらに詰めていく価値がありそうです。
上記の状態で暫く使っているうち,
予備のものを送ってから3週間程が経った頃,新調なったアイドラが帰ってきました。
ミシガン州にある専門業者さんに依頼していたのですが,
硬化していたゴムを丁寧に削り落とし,新しいゴムを綺麗に元と同じに貼り付けてくれました。
早速,間に合わせのアイドラとこれとを交換し,慣らし運転をしてみます。
数十分も回していると,アイドラの表面が安定してきたのか,プレーヤの傍で聞こえるメカノイズのレベルはかなり低くなって来ました。
時間をかけた慣らし運転による効果がどの程度まで出てくるのかは分かりませんが,このレベルなら特に不足はありません。
これでプレーヤ機構の方は,主な手入れが終わったことになります。
こうなってくると,次はデンオンのモノーラルピックアップ102も導入し,
これと比較しながら細かな調整をしてみなくてはなりません。
さて数ヶ月の間というものは,手許のモノーラルLPをこのシステムで聴き直すなどして楽しんでおりました。
しかし,DECCA Mk.IV カートリッジをガラード301グリース軸受けプレーヤシステムに組み合わせ使うようになってからというものは,
新鮮味の薄れてきたこともあってか,金属スプリングで浮かせたプレーヤ台の癖も気になり始めたことも重なって,
この220Aから長らく遠ざかるようなことになっておりました。
そうこうしている内に,フェアチャイルド製ターンーテーブル本体412−1Aとステレオ仕様トーンアーム282を入手することができました。
こうなってくると,今少し気がかりになっていた220Aシリーズの音を再確認するべく,
これらを組み合わせたモノーラル専用プレーヤ・システムを改めて制作せねばなりません。
新しいプレーヤシステムだと音色にどんな違いが出るのかと想像を膨らませながら,
天板は1枚のまま側板は2枚貼り合わせにした,先ずは木材と接着剤だけによる台を組み立てて行きます。
塗装が十分に乾燥した台に機構部への注油などを済ませた412−1Aを組み込み,
動作時の振動ノイズレベル点検と併せてアームの手入れへと作業は移って行きますが,
ここまで来ると,仕上がりの様子をかなり具体的に思い描けるようになってきます。
ターンテーブル本体は,制震処理をしたアルミ鋳物製で,交換可能な金属球を用いた点軸受けにより支えられております。
そしてこの軸受け上部には,フェルトを利用した大きな油溜めがあり,長期に渡り同じ調子を保つべく,
たっぷりと給油できるようになっているみたいです。
ターンテーブル駆動部は,ゴムベルト2連を太目のプーリにかけた速度切り替え無しの伝達機構を有しており,
流麗にかつ力強く回るパプスト製独立3巻線アウターローターモータのお陰もあってか,かなりの高トルクです。
回転速度は,プーリ径の組み合わせにより,商用電源(60Hz)でLP用(33 1/3 rpm よりもほんの少しだけ早め)となるように設定してあります。
そして回転速度の切り替えは,電力増幅器とウィーンブリッジ発振器とを組み合わせた単相の交流電源を組み込み,
主に電源周波数の変更により対応するという当時としては珍しい仕様になっています。
取り敢えずは商用電源にて使うことになりますが,周波数変更の可能な専用電源を用意すると回転数の微調整をすることができます。
これには先に触れたように,真空管を用いたウィーンブリッジ発振器と電力増幅器1台とからなる専用電源を用意し,
この単相交流電源をデッキ下部に組み込み,操作部をデッキ上面に配置して行うのが当時としては合理的なデザインだったようです。
ところで,
単相電源によりパプスト社3相ヒステリシス・シンクロナス・モータを滑らかに回すべく,
巻き線に加える電圧を加減したりコンデンサなどを併用し回転磁界を円形にできたとしても,
位相角を確実に保つのは困難であることから,
回転磁界を安定した円形のまま保つことはほぼ不可能です。
一方,2相電源により2相モータを駆動するとか,3相電源により3相モータを回すようにすると,
起動時および定常運転時ともに無理なく真円の回転磁界の得られることから,
単相電源によるよりもより滑らかに回すことができます。
また,2相および3相電源ともに真円の回転磁界による滑らかな駆動力を期待できるとはいっても,
結線の変更や組合せによる電気的負荷としての選択肢の多いことに加えて脈動をより少なくできることから,
3相電源による方がモータ振動音などをさらに小さくすることができそうです。
なので,3相同期モータそのものを組み込んでいるフェアチャイルド412と自作3相交流電源とを組合せ,
これらのことを確かめてみるというのも興味惹かれるところです。
このことに関しては,予備機も兼ねさせようと412−1Aをもう一台入手していることから,
これを自作交流電源と組み合わせて比較できるようにするべく準備をしているところです。
ちなみに,発振周波数 f = 1/2πCR のウィーンブリッジ発振器に伝達関数 (-1+j2πfCpRp)/(1+j2πfCpRp) の位相器ふたつを位相角120度(sqrt(3)CpRp=1/2πf)にして組み合わせ,
パワーアンプ3台を用意するだけという今となっては小規模な回路構成で済むことからも,
殆どをお気に入りの部品にした,
低ひずみ低雑音の小型アナログ3相交流電源を作ることはそう難しいことではなくなっています。
そして,出力レベル設定も兼ねる予定の伝達関数が 1/(1 + j2πfT)^2, where T=(C_LPF)*(R_LPF) となる2次LPFも加えた,ここに示しているような3相交流電圧発生回路から成る専用3相電源を制作中なので,
そのうちに正しく3相同期モータとしてターンテーブルを回すことになるものと思います。
商用電源でもそれなりに満足していることも有り,
電力増幅部にはまだ手付かずなのですが,
ここ最近の中国製測定器の性能は如何程であろうかという興味も有って入手した4チャンネルオシロスコープを使うことにより,
下準備も兼ねて3相発信器の動作確認をしておくこととなりました。
その結果,
試作品の発振周波数は使用部品の関係で60.887Hzとやや高めそして出力電圧は10.7Vp-pと低めではあるものの,
発信器の各出力の位相差は計算通りほぼ120度になっていること等が確認できました。
それにしても中国製ハードウェアの高性能かつ廉価なのには脅威を感じる程のものでしたが,
信号解析に必要なFFT機能などのソフトウェアが思っていた以上にお粗末だったという,
ギャップの大きさにも驚いた次第です。
電力増幅部も含めた交流電源の制作は,パプスト製3相モータの駆動に必要な電圧を調べてからになりそうです。
簡単に実験した限りでは,アウトプットトランスを介し昇圧しなくても,
動作電圧が少し高目のパワーICを使えば直結でも何ら問題なく回転してくれそうな感じです。
そうであるならば,プレーヤに組込む上での,3相交流電源の寸法や重量と発熱に関する問題などに悩まされることが無くなるので,
慌てず楽しみながらぼちぼちとマイペースで仕上げていく予定でおります。
トーンアーム282は,簡単な点検も兼ねて,軽く分解掃除をしておきます。
トーンアーム側のコネクタを固定してある絶縁材ブロックには,
ステレオ・カートリッジにも対応するよう2組計4個の接点がネジ止めしてあります。
ステレオ仕様とはいってもその規格は,直にアームへ取り付けることのできる機種を限定したものでしかなく,
計4個の接点を極単純に上下二段となるよう配置してあるに過ぎません。
ならばと,モノーラル仕様と互換性のある1組計2個の接点だけを残すようにして,
分解したついでにとばかり,モノーラル専用へと思い切り良く変更しておきます。
勿論のことですが,外した1組計2個の接点とケーブルは,部品棚の埋め草として保管されることになります。
カートリッジからの信号をアーム下部から引き出すためのシールド線は,オリジナルの補強繊維入りケーブルを外し,
芯線の太い同軸ケーブルへと交換しておきます。
ところでトーンアーム282は,特定位置でアームをロックする仕掛けが本体内部に組み込まれていることから,アームレスト無しでも使えるようになっています。
それでも,カーソルごと抜き差しすることでデリケートなカートリッジの安全確保をするのは面倒なことから,念のため木製アームレストを用意しておきます。
イコライザーも新たに作成するべく準備中ではありますが,先に触れた3相電源プロジェクトもゆっくりとではあっても進行していることから,
当分の間は手許に在る内蔵型で間に合わせることになります。
使い勝手の差は僅かでしかないものと思っていますが,
ステレオからモノーラル仕様へと部分変更したアームの整備も完了し最終的な取付を待つのみとなりました。
ところで,
アルゴンヌGA3は水平垂直動作をまとめて行う一点支持スタティック・バランス型オイルダンプ・アームであり比較的敏感なのに対し,
フェアチャイルド282は水平垂直方向それぞれの軸受けを離して配置したダイナミック・バランス型アームであることからか,
比較的鈍感ではあるもののより確実に動作する気がしております。
なので,このような機構の違いも反映した,フェアチャイルド色に染まった音とはどのようなものかを間もなく聴き取り確認することができそうです。
琥珀色の珈琲がブラックコーヒーへと変わってしまう前に,
使用時の雰囲気はどんなものかとばかり,質量分離型トーンアーム282をプレーヤ台に仮置きし,
ターンテーブル412−1Aにはあり合わせのマットも載せて,取付位置を確認しておきます。
トーンアーム上部に出ている水平軸受け機構は,金属とガラスの飾り蓋を用意して見えなくする予定ですが,取り敢えずこのままにしておきます。
それでも,配色と寸法のバランスさらには立体感と,
なんとかしてここまで漕ぎ着いて見ると,当初思い描いていた仕上がりに近いような気がしてきます。
プレーヤ台内部のアーム側にイコライザを組み込み,軽合金鋳物製角形トーンアーム282回転軸の水平も出し,
プレーヤ台とほぼ同じ床面積のある木製オーディオラックに載せると,
残るは音出しだけです。
取り敢えずは(33 1/3 rpm)LPレコードに対応しているので,最初に鳴らすアルバムはどれにしようかと考えながら,
パプスト3相アウターローターモータの風切り音以外,異音の出ていないことを確認しておきます。
このレコード再生システムで最初に鳴らすアルバムとして,
フェアチャイルド製システムによる1954年12月録音のヘレン・メリル・ウイズ・クリフォード・ブラウンを選んでみます。
最初の曲「ス・ワンダフル」の出だしを聴いて先ずは一安心,
2曲目「ユード・ビィ・ソゥ・ナイス・ツゥ・カムホーム・ツゥ」へと差し掛かる頃には,
ほぼ思い描いていた通り,地に足の付いたような実体感のある,良く弾む強い音であることを確認できました。
フェアチャイルド製の質量分離型アーム282は,インサイドフォースを気にすることなく曲の頭に針を下ろすことのできる,
とても使いやすいダイナミックバランス型トーンアームのようです。
また,ターンーテーブル駆動モータからのノイズの少ないこともあって,モノラル録音を新鮮な音としてより楽しく聴くことができるようになりました。
なので,アームの高さや針圧調整などをさらに詰めた後は,
取り出したレコードのモノーラルかステレオなのかを確認してからプレーヤを選ぶという,悩ましくも楽しい時間が増えそうです。
ここにはフェアチャイルド220Aシリーズを使ったモノーラルレコード専用プレーヤシステムのことを順次書き込んで行く予定です。